2012年日本聖公会宣教協議会
「いのち、尊厳限りないもの」-宣教する共同体のありようをもとめて-
日本聖公会<宣教・牧会の十年>提言
2012年9月14日(金)から17日(月)の日程で、浜名湖畔の研修施設「カリアック」に、すべての教区主教をはじめ各教区代表、管区諸委員会、そして大韓聖公会からの代表など信徒・教役者140余名が集い、「2012年日本聖公会宣教協議会」が開催されました。この宣教協議会は2008年の日本聖公会第57(定期)総会において、以下の3つの目的で開催されることが決議されていました。
- 聖公会信徒の減少・高齢化、聖職者の不足、教会建物の老朽化、財政の逼迫などの現状を受け止め、互いの知恵と経験を分かち合い、この喜びの福音を伝える具体的な宣教ビジョンを構築すること
- 長期にわたる経済不況のもとで、貧困・失業・家庭崩壊など様々な困難に直面し、殊に高齢者や障がい者など社会的に弱い立場におかれている人びとにとっては、ますます生きにくい社会になっています。このような社会において、教会に求められている宣教について再認識し、具体的な方策を検討する
- 世界各地における政治・宗教・国家・民族などを巡る対立が続いており、未だ戦火が止むことはありません。1996年の第49(定期)総会決議を通して日本聖公会は、日本の戦争責任に関してアジア諸国に対して公式に謝罪しました。その決議を踏まえ、日本聖公会が永久に平和の器として用いられるため
しかし、2011年3月11日に起こった東日本大震災と福島第一原子力発電所の災害は、その地に生きるすべての<いのち>に対して重大な犠牲と被害をもたらしました。これらの災害がもたらしている様々な課題は、わたしたちのこれまでの生き方や教会のありようを根本的に問い続けています。もはやこの災害によってもたらされた事態・現実とは無関係に、わたしたちは宣教や教会の具体的な事柄を考えることができません。このような状況の中で今回の宣教協議会が開催され、わたしたちは教会の宣教課題や組織維持の課題を巡り、多くの時間を共有し、学び、語り合いました。
「イエスの道を歩く~未踏へのチャレンジ・未来の子どもたちのために原発を止めるためには~」というタイトルで話されたべリス・メルセス宣教修道女会の清水靖子シスターからは、福島第一原子力発電所の災害による放射能汚染に関する深刻な問題提起を受け、キリスト者としてこの現実において、どのような生き方を選択するのかを問われました。東日本大震災被災者支援活動「いっしょに歩こう!プロジェクト」の長谷川清純司祭は、被災者に寄り添う主イエスとの出会いの中から教会の働きを語られました。また、同じく越山健蔵司祭は、放射能汚染地域に生きる人びとの現実と苦悩、そしてその中に置かれている教会と牧師の苦悩・躊躇を語られました。
西原廉太司祭による基調講演「わたしたちの『宣教』を想い描くために~日本聖公会の宣教の課題と可能性~」では、豊富な資料とともに多様な宣教ビジョンが提供されました。さらに笹森田鶴司祭によるバイブル・シェアリングは、「わたしたちは何者で、何をすべき存在であるのか~神との関わりの中で問いかけに応える~」というテーマで行われ、被造物としての人間の使命について互いに分かち合いました。
これらの学びをもとに、わたしたちは15のグループに分かれ、これからの教会のビジョンについて語り合いました。わたしたちはここで話し合われた様々な内容をまとめ、日本聖公会がすべての<いのち>を守る決意を持った共同体として新たにされるために、以下のような提言をいたします。
しかしながら、限られた時間と人数でのディスカッションによる提案であり、それゆえこれらの提言をもとに、各教区・教会においてさらに議論を深め、実践していかれることを願っています。
日本聖公会<宣教・牧会の十年>にむけて
今回の宣教協議会で、わたしたち日本聖公会の宣教の原点は、教会内の牧会はもちろん、教会のある地域全体に対する牧会的働きをていねいに実践していくこと、その地域にある課題、そしてこの世界にある課題に誠実に取り組むことにあると再確認しました。
悲劇に満たされたこの世界・社会において、絶望の内にある人びとのかすかな声に耳を傾け、声を出せない人びとの「声」となっていくこと。圧倒的に希望を奪われた状況の中に生きる人びとに対して、「にもかかわらず」、神の祝福“<いのち>の喜び”を語り続けること。それがたとえ、か細い声や小さな祈りであったとしても語り続けること。これらはわたしたちが、「いっしょに歩こう!プロジェクト」の働きから学んだことでもありました。
日本聖公会が新しい共同体となるために、わたしたちは過去の歩みを謙虚に省み、神への信頼と希望をもって歩みだします。キリストの救いと喜びをこの世に現すため、またサクラメントをとおして与えられる神の恵みに多くの人びとを招くために、み言葉と礼拝への思いを深め、ともに祈ります。教会は、特に癒しと解放を求める人びとに心を通わせ、一人ひとりの<いのち>を宝とし、地域(パリッシュ)そしてすべての被造物とともに主の救いに与ることを願います。
わたしたちは、これからの十年間を『日本聖公会<宣教・牧会の十年>』と名づけ、日本聖公会のすべての信徒・聖職、教会・教区が心を一つにして、それぞれの場、それぞれの形で、以下の諸項目を中心とする<宣教・牧会>に徹底して取り組むことを提言します。その動きを推進するための機関を管区と各教区に設置し、相互に協力しながら新たな共同体づくりをめざします。どのような機関がふさわしいのかについては、管区においては常議員会に、教区においてはそれぞれのしかるべき機関に付託し、新たに歩みだすことを願います。
十年後に「2022年日本聖公会宣教協議会」を開催し、十年の間どのように<宣教・牧会>に取り組むことができたのかを分かち合うことを合わせて提案します。それは同時に、わたしたちの<宣教・牧会>の果実を刈り取る収穫感謝の祭りとなることでしょう。
今回の宣教協議会で話し合われたことを、聖公会が大切にしてきた教会の5つの要素、宣教 (ケリュグマ)、奉仕 (ディアコニア)、証し (マルトゥリア)、礼拝 (レイトゥルギア)、交わり (コイノニア) に基づいて次のように提言します。【( )内はギリシャ語です】
1 み言葉に聴き、伝えること<ケリュグマ>
- わたしたちは、すべての<いのち>の創造者であり、すべての<いのち>の尊厳を回復してくださる方であり、すべての<いのち>の導き手である、主なる神のみ言葉にたえず聴き従います。
- 信徒と聖職がともに、“ていねいな<宣教・牧会>”を担っていくため、信徒奉事者・伝道師・特任聖職などを含め、より多様な働きを作り出していきます。そのために必要な養成・訓練プログラムを整備します。
- 神学校での教育を教区や管区が積極的に捉え直し、日本聖公会として、聖職および神学教育指導者の養成に取り組むことを望みます。
- 東日本大震災被災地の現場における証言をとおして、「被災者に寄り添う主イエスとの出会い」の物語と聖書の物語を重ね合わせ、各々の地域(パリッシュ)で担うべき課題を明らかにします。
2 世界、社会の必要に応え仕えること<ディアコニア>
- わたしたちは、自然と共生することで、地球の<いのち>を守ります。
- 困難な状況に置かれた人びととともに歩む中で、<いのち>より他のものを優先する社会に「否」を言い、社会的矛盾を明らかにする勇気を持ちます。
- 1962年に立教大学原子力研究所の開所にあたって「原子炉奉献の祈り」※1を唱えたことの問題性を認識し、「原発のない世界を求めて-原子力発電に対する日本聖公会の立場-」※2で表明した内容を誠実に主張・追求・実践します。
- これからも東日本大震災の被災者に寄り添い、ともに歩み、祈り続けます。「いっしょに歩こう!プロジェクト」が、その「活動方針(ミッションステートメント)」を大切にし、被災した人びとに敬意を払ってきたように、プロジェクトに区切りをつける2013年5月末以降も、被災地の人びととのつながりを尊重することを望みます。
- 教会の歩みの中で生まれてきた施設(保育園・幼稚園・学校・医療・福祉施設など)が宣教の働きであることを再認識し、地域社会においてそれらの施設と協働していきます。
3 生活の中で福音を具体的に証しすること<マルトゥリア>
- わたしたちは、それぞれの地域における多様な教会の姿が、<福音><宣教>であることを確認します。
- これまでの教会のありよう(習慣や組織など)を尊重しつつ、現代に証しするために、それらを大胆に変えていく勇気を持ちます。
- 「どこで、誰と、どのように」を大切にして歩む教会のありかたを模索し、地域の必要に応えていきます。
- 誰にでもわかる言葉と方法で、信仰生活の魅力を伝えられるように努めます。
4 祈り、礼拝すること<レイトゥルギア>
- わたしたちは、すべての<いのち>の尊厳に基づいた多様な礼拝・諸式の研究に取り組みます。
- 様々な状況で生きる人びとの必要に対応するため、礼拝の時間や曜日の検討、式文のデータベース化、選択肢が豊かな式文の作成、多様な礼拝音楽の研究に取り組みます。
- 礼拝における信徒の役割をより豊かにするために、必要なプログラムを整備します。
- 共同の礼拝をより豊かにすると同時に、各自の祈りをとおして、一人ひとりが霊的に成長することに励みます。
5 主にある交わり、共同体となること<コイノニア>
- わたしたちは、すべての人の居場所・出会いの場となる教会の形成をめざします。
- 「高齢者」「青年」「女性」「男性」「子ども」「障がい者」「外国人」などとひとくくりにせず、一人ひとりの生きている重みを尊重し、積極的な出会いの中から、いっしょに歩く交わりを形成していきます。
- 一人ひとりが宣教の担い手として、対等なパートナーシップのもとに協働していくため、ジェンダーの平等を保障し、いかなるハラスメントも起こさない共同体を築きます。
- 青年たちの声に耳を傾け、自主的な活動を尊重して支援します。
- この世に仕える教会の形成のためには、様々な立場の人びとが、教会・教区・管区の意志決定機関へ平等に参画することが求められます。その一歩として、女性の比率が高まるように働きかけ、2022年までに少なくとも30%の参画※3を実現し、さらに青年層の参画も推進します。
- 「聖職任せ」「信徒任せ」ではなく、一人ひとりが教会内外でともに牧会をするという意識を持ち、共同体全体が積極的に宣教の業に参加していきます。
- 一つの教会だけではなく、教会・教区を超えて積極的な関わりを持ち、互いの賜物を分かち合います。そして互いの違いを乗り越え、具体的に出会う機会を作り、教区間協働や教区の再編を目指して具体的な活動を推進していきます。
- 世界の聖公会と情報を交換し、互いに学び合い、協力し合います。
- 大韓聖公会やフィリピン聖公会をはじめ、アジアの諸聖公会との協働をさらに推進します。そのためにも、「日本聖公会の戦争責任に関する宣言」※4のさらなる実質化を図ります。
※1 アメリカ聖公会から研究用原子炉が寄贈された際の祈り/2001年稼働停止
※2 2012年第59(定期)総会決議
※3 2004年第49回国連女性の地位委員会に派遣された全聖公会中央協議会代表団による声明を受けた第13回全聖公会中央協議会の承認に基づく。
※4 1996年第49(定期)総会決議